渡辺明棋王(三冠)に糸谷八段が挑戦する第46期棋王戦第三局は実に面白い勝負術の応酬であった。
糸谷八段を応援しながら見ていたものとしては、序盤早々から終始不利な展開の上、最終的に敗北したので大変残念であったが、対局そのものは、実に面白かった。
人間同士の、しかも、勝負術を駆使した闘いであり、その意味ではこの二人はうってつけの役者である。
挑戦者糸谷哲郎八段は後手番ゆえ、得意の「一手損角替わり」が予想されたところ、事前研究の上、意表を突く「後手番横歩取り戦法」!
22手目までノータイムであり、事前研究であることは想像に難くない。
そこで渡辺三冠は、研究と悟ってか、その手に乗らず持久戦模様に手を張る。
解説の黒沢怜生五段の予想を裏切る38金!
無くはないが壁にする手であり、ここで「早指し早見え」の糸谷八段が長考に沈むのであるから、渡辺流「勝負術」成功である。
49分の長考のあと、糸谷八段は75の飛車を支える74歩。
ところが直後の76歩の突き出しに対してそれを同飛と取れないところに糸谷八段の誤算があった。
終局後の二人の感想戦もいきなり、その場面から始まる。
「金かあ、と思った」
「長考してこの歩が取れないようではおかしい」…。
コロナ禍で感想戦は約30分くらいにしているそうだが、この日の、二人の感想戦は実に一時間に及ぶ濃密なもの。
Abema解説の阿久津主税八段が番組最後のまとめとして「何局もみたような、濃密な一日だった」と締めくくったがそれが本日の対局の凄さを物語っているだろう。
ある意味で糸谷ワールド満開。
盤上の真理を追究するのとは違う、人間同士の勝負術を駆使した闘いの魅力であろう。