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by kazuo_okawa

2014年 08月 31日 ( 1 )

文庫版「Nのために」を読む。
語り手の視点を変えて進める湊かなえ得意の手法であり、
しかも読み進む内に、あれ、と思わすのがにくい。

【以下、ネタバレしています】

ミステリとしてはかなり面白い。
というか「文句なし」です。

刑事裁判としては解決ずみのはずの、野口夫妻の死亡事件が、
語り手が変わる毎に、真相が徐々に明らかにされていく。

その都度、頁をもとに戻して確認するのは心地よい楽しみである。
最後の十数頁は驚きである。

杉下が述べる「奈央子さんは自殺じゃない」の言葉が
一瞬、自殺の肯定なのか、否定なのかわからず、その混乱が楽しい。
「思いこんでいたとしてもそれは愛」と西崎はいうのがまた良い。

そして一番驚くべきは、仕掛ける側の杉下が、
何と、仕掛ける相手に、その仕掛けを打ち明けていたというのである。
いやあ、このサプライズエンディングが実にいい。

というわけでミステリとしてはお薦めの作品ではある。

しかし、私が気になったのは、杉下が野口夫妻に近づくための道具とするなど本作の中心的アイテムであるはずの「将棋」である。
つまり将棋の出てくる場面がどうにも違和感を覚えるのである。

野口氏は将棋が趣味と公言している人物であり、その人物が、安藤と将棋を指し、不利になると中断する。
実は中断して、杉下の指導を仰ぐのであるが、そのときに野口は棋譜を再現している。
棋譜を再現できるというのは実は相当の実力者である。
一方、安藤はどうみてもそんなに強くないはずだが、
野口がその安藤との勝負に不利になって、中断しているのである。
どうにもしっくり来ない。
また、「詰め将棋で覚えた戦法」「穴熊、美濃囲いなど(の)戦法」などという表現が出てくるが、そういうところは「戦法」ではないでしょう、と突っ込みを入れたくなるなど、不自然なのである。

それゆえに、本格ミステリファンとしては、そこに何かの仕掛けがあるのでは、と思ってしまう。
実際は何もなく、おそらく、作者湊かなえ氏が将棋に詳しくないだけなのだろう。
その点が、実に残念である。
by kazuo_okawa | 2014-08-31 21:23 | ミステリ | Trackback | Comments(0)