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by kazuo_okawa

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人

東野圭吾氏の最新作であり、発売直後に購入するもようやく読む時間がとれました。
(今年は、ミステリ・マジックともども未読が多い。)

さすが東野圭吾!
見事である。
脱帽としか言いようがない。

(以下、ストーリーに触れています)

時はコロナ禍の2021年。
教え子の誰からも慕われた元中学教師が殺される。
その教師の娘も同中学に通った同窓生で、時あたかもその元教師を囲む同窓会の準備を巡って娘の同級生達が色々な打ち合わせをしていた。
タイトル通りの小さな町の殺人。自ずと容疑者は同窓会関係者に絞られる。
そのとき探偵役として登場するのが元教師の弟、しかも元マジシャンときている…。

この探偵役が実に魅力的なのである。
登場場面からしていい。

警察官であれ、街の実力者であれ何ら物おじしない。
こういうところはハードボイルド風だが、無論本格ミステリ。
彼は優れた洞察力とマジックの腕前で、真相を巧みに引き出す。

そのテクニックは、メンタルマジックのリーディングの手法、チェンジの基本から盗聴、盗撮などのギミックなど…。

このマインドリーディングの会話が実に面白いのである。
(あのフリーマントルも超えたであろう…)

コロナ禍の近未来絵図、犯人像、動機、読後感とどれをとっても素晴らしいが、私が感心したのは、マジックへの造詣である。

本格ミステリの解説はすべきものではないので、一つ一つの説明は省くが、一例をあげれば、煙草を吸わない探偵役が、真相解明の行きがかり上、ある場面でオイルライターを使うのだが、あとからワトスン役の元教師の娘に、その理由を明かす。

そのときに、何と「シガ―スルーコイン」というマジックを披露するのである。
物語の中では、単なるワンシーンに過ぎないが、作者東野圭吾のマジックの造詣の深さを知りうる場面であり、余韻を残した結末も含めて、実に唸ってしまうのである。

【注】本格ミステリの感想・説明と同じくらいに難しいのがマジックの感想・説明である。煙草のマジックは幾つもあり、その中でわざわざ作者東野圭吾が、作中「シガ―スルーコイン」を使ったのは、このマジックをめぐるエピソードをおそらく知っているからであろう。
「シガ―スルーコイン」は日本のマジック界では大事件となった。
裁判にまでなったことなど、マジシャンやマジックマニアにはよく知られている事件である。
幾つもある煙草マジックの中でわざわざこの「シガ―スルーコイン」を選んだのである。
無論、作者東野圭吾氏がどこまで取材しているのか(周辺のエピソードは幾らもある)不明だが、今、日本でこのマジックを(背景を知らずして演ずるものは別として)意識的に演ずる者がいれば、その人物は、少なくとも、警察の横暴や欧米と離れた日本の法律の古さに対していささか批判的立場だろうなと感じられるのである。


by kazuo_okawa | 2020-12-13 16:54 | ミステリ | Trackback | Comments(0)