東野圭吾「禁断の魔術」文庫版を読む
2016年 04月 04日
先に単行本を読んでいても、十二分に楽しめるところが、さすが東野圭吾である。
文庫本(長編)冒頭は、単行本(中編)にない、ホテルでのエピソードから始まる。
あたかも「マスカレード・ホテル」を想起させるとともに、いきなり登場する女性が「瓜実顔で、大きな目がやや吊り上がっている」。
いいですね。
東野ミステリによく出てくる「目の吊り上がった美女」パターンである。
長編化している分だけ登場人物への心理的共感は深くなる。
真相を解明するためのきっかけは、文庫本(長編)の方がいいだろう。
読み手にとって、長編化すれば最初の方のストーリーを忘れがちだが、このインパクトのある手掛かりは印象に残るからである。
こういう細かいところもうまい。
考えてみれば、古くは森村誠一の「新幹線殺人事件」などを始め、
ミステリの世界では、既に発表した自己の短編を長編化することがある。
それは、その短編の構想に作者として思い入れがあるからだろう。
だからこそ東野圭吾自身、文庫本の帯で、「シリーズ最高のガリレオ」と断言している。
最終場面は、映画「ジャッカル」を思わすサスペンスである。
映像化が期待される作品と言えるだろう。
(本稿は2015年6月にアップしたものをうっかり削除したため再掲です)
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