東野圭吾「虚ろな十字架」を読む
2014年 05月 24日
読み始めるととまらず、結局最後まで読了し、そのためやや寝不足気味である。
今日が土曜日で良かった。
というかそれを見越しての発売日なのか。
それにしても、いやあ、うまいものである。
<以下、ややネタバレしています>
冒頭のプロローグがいい。
これで沙織と史也に読み手として心理的共感を覚える。
とりわけ史也は短いプロローグの中でスポーツマンで頭が良いことが示される。
これだけで普通に物語の主役と印象づけられよう。
ところが、その史也の、その後の不思議な行動が全編を貫く「謎」となり、
それが本作の見事なところである。
読み進み、おそらく史也が(そしてそれに沙織が絡んで)過去に何かをしたのであろう事は想像できるが、
その疑問が膨らんでいくところがミステリの醍醐味であり名手東野の見事な技である。
そしてもう一方の主役中原道正の、元妻浜岡小夜子を殺した犯人の
町村作造の動機が泣かせる。
「何かを守るために殺人を犯す」という東野圭吾の十八番でもある。
そしてそれは、町村作造に対する評価を
ネガとポジのように見事に逆転させるのである。
思えば、他の登場人物の評価も
まるで東野圭吾の手のひらにのせられているように
変わるのである。
本作の表のテーマは
「死刑によって被害者は救われるか」というものだが
裏のテーマは「人の評価、そして物の見方は変わる」というものである。
現に登場人物への「好感」は作者の思いのままに変わりうる。
そしてクライマックス。
私が一番心地よく驚いたところである。
作者としてはプロローグ登場の史也と沙織を悲劇で終わらせる手法もあったろう。
死刑制度の意味を考えさせるという「社会派」を貫くなら
そういうエンディングもあったかもしれない。
しかしさすがにエンターテナーである。
「補強証拠」がなくなるという思わぬエンディングで読者をほっとさせる。
佐山の解説もいいし、「作為」をうかがわせるラストも良い。
読後感が気持ちいい。
別れた妻が殺された。もし、あのとき離婚していなければ、私はまた遺族になるところだった。 東野圭吾にしか書けない圧倒的な密度と、深い思索に裏付けられた予想もつかない展開。 私たちはまた、答えの出ない問いに立ち尽くす。 東野圭吾さんの長編小説です。いつも通りの読みやすさはもちろんのことですが、 東野圭吾さんならではの苦味、スピード感に加えて、今回はより丁寧に描いている印象です。 今...... more
今回は重いテーマで、とっても考えさせられました。
凄く良かったです。
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