プロメテウスの罠
2014年 01月 27日
「プロメテウスの罠」は、これまでも、色々と考えさせられる素晴らしいルポルタージュであるが、
1月26日の記事は、読んでいて、ぐぐっと来た。
原発被災地でも、刑事事件は発生する。
現に、2011年3月14日に相馬市で殺人事件が発生した。
弁護士も含めて、誰もが福島から非難しようとしていた時期である。
そんなときに殺人事件が発生し、当然、被疑者の逮捕と捜査は始まる。
一方、弁護人はどうするのか。
福島の弁護士は、自分自身が、震災、原発で大変な状況であり、誰もが
刑事弁護の余裕などはない。
つまり刑事弁護の成り手が無い。
そんなときに、法テラス福島事務所に所属する弁護士歴3年目と2年目の
2人の若手弁護士、加畑貴義氏と頼金大輔氏に電話が入る。
誰も引き受け手のない殺人事件の国選弁護を引き受けてくれないかと…。
彼ら自身、福島から非難していようとしたときであり、
一方、刑事弁護の重要性は百も承知している。
そこで、彼らは、受任すべきかどうか、2人は、一たん電話を切って考えるのである。
以下は、その2人の場面を、朝日新聞記事からそのまま引用する。
<(略)検事の書く調書に、いわれるままに容疑者が署名押印する事態は避けなければいけない。
そのためには毎日接見し、容疑者の心が「折れない」ように励まし続けることが必要だ。
これだけの高線量のなか、果たしてそうした弁護活動ができるだろうか。
移動の頼りは車だけ。そもそも長時間、外に出ていいのだろうか。
放射能に関する知識は、2人ともまったくといっていいほどない。
沈黙は5分近く続いた。口火を切ったのは頼金だった。
「――やるしかないでしょ」
「――やるか」
加畑も応じた。
「俺たちが弁護士避難のしんがりになるな」>
このくだりで、心が動かない刑事弁護士はいないであろう。
原発高度被災地において、わざわざその場所で、逮捕、勾留し、
さらにそこで、取調や刑事弁護を続けなければならないのか、
など根本的な疑問はあるだろう。
或いは、「法テラス」の評価についても色々と議論はあるだろう。
しかし、そんなことをおいても彼らの決断には心を動かされる。
いつ、どこで、どんなときでも、
目の前に、刑事事件の被疑者・被告人が助けを求めるとき、
全力を挙げて、彼らのための弁護をするというが弁護士の心構えである。
しかし、言うは易く、行なうは難し。
ましてや、高度被爆という特別な状況下である。
仮に、彼らが、刑事弁護を断ったからといって誰が彼らを非難し得よう。
そんなとき、彼らは、一瞬迷いながらも引き受けるのである。
朝日新聞の素晴らしい記事に感謝したい。
そして、若き彼らの、正義感、勇気、決断に心から敬意を表する。