九マイルは遠すぎる
2013年 11月 04日
郷田真隆九段対永瀬拓矢六段という好カードである。
郷田は羽生世代の元タイトルホルダー、
永瀬は研究熱心な若手実力者である。
解説は森下卓九段。
事前の「戦型予想」が面白い。
将棋を知らない方には分かりにくいかもしれないが
将棋には、先手の戦法、後手の戦法が、
それぞれ幾つもあり、その組み合わせで、
これまた幾つもの「戦型」がある。
その戦型を予想するのも、将棋ファンの楽しみであり
解説役も、事前の戦型予想は、言わば「お約束」なのである。
本日、森下九段の戦型予想が大変面白かった。
対局者には、対戦前にインタビューがされるのだが
後手番永瀬六段が対戦前に述べた
「先攻する展開になればいいな、と思っています」
と言う、このわずかな一言から、
森下九段が大胆に戦型を推理するのである。
- 郷田九段は居飛車党。しかも直球派である。
後手番、永瀬六段は、振り飛車党だが、
ここ3ヶ月くらいはずっと居飛車を指している。
しかも研究家である。
居飛車対居飛車で、且つ、後手番で先攻する、という形と言えば
横歩取り戦法である。
横歩取り戦法の勝敗は研究がかなり決め手となる。
研究家永瀬六段にふさわしい。
無論、先手が横歩を取らなければ、横歩取りにはならないが
一方の、郷田九段は、横歩を差し出されて逃げるような男ではない。
とすれば、これは、ほぼ100%「横歩取り」になるだろう。 -
いやあ、いいですね。
実に見事な推理である。
私は、この推理を聞いて
ハリイ・ケメルマンの名作ミステリ
「九マイルは遠すぎる」を思い出した。
これは、偶然聞いた「一言」(それが「9マイルは遠すぎる。…」と
いうものであるが)から、事件を大胆に推理するという
アームチェア・デティクティヴの古典的傑作である。
さて、郷田九段対永瀬六段の戦型はどうであったか。
2六歩、3四歩、そして何と、2五歩!
永瀬六段はこのあと、4手目、6手目を指すのに、
体を大きく前傾して熟考し、時間を費やした。
結果は「角換わり対抗型」で、森下九段の予想ははずれたが
それくらい意表をつく、出だしであった。
6手目までの数分は、画面から緊張が伝わってくる。
ともあれ、2六歩、2五歩のオープニングは
「将棋世界」最新号(12月号)の「勝又教授の戦法ランキング」によれば
9月のプロ同士の対局に、8局も行われている注目の戦法だという。
無論、森下九段の推理は、外れたとはいえ
「推理する楽しさ」をいささかも減ずるものではない。
尚、郷田九段対永瀬六段の対局の詳しい解説と棋譜は
NHK将棋講座テキスト1月号をご覧下さい。
…と、矢内理絵子女流四段風でした。