Pawn Sacrifice-完全なるチェックメイト!
2016年 01月 12日
原題は、Pawn Sacrifice。
映画を見て初めて原題を知った。
直訳すれば、ポーン(将棋の「歩」に当たる駒)の犠牲。
映画のワンシーンに、「あそこで、ポーンを犠牲にしたから負けたんだ」というやりとりがある。
フィッシャーについては、将棋ファンなら欠かせないエピソードがある。
フィッシャーは世界チャンピオンになったことで、英雄としてもてはやされたが、その後奇行や反米、反ユダヤ的発言により反発を買い、「幻の英雄」と呼ばれ、対ユーゴスラビア経済制裁時に当地で試合をしたことでアメリカ政府に起訴された。
そのとき滞在中の日本で拘束されたが、その釈放のために、時の小泉首相に直訴してまで活動したのが、誰あろう、日本の将棋界のスーパースター羽生名人なのである。
ボビー・フィッシャーと羽生善治。
この二入が交錯しているというだけで背筋がぞくぞくするような驚きがある。
地球上の頭脳競技の二人の天才には通ずるところがあるのだろう。
「天才とは、時代を超えて影響を残せる人」というのは羽生の言葉である。
その羽生名人が推薦する映画。
見逃せるはずがない。
実際、チェスの場面が実にいい。
フィッシャーはアメリカの期待を背負って闘う。
キッシンジャーが直通電話で述べたという「世界一チェスの下手な私から、世界一チェスのうまい君へ」という「世界一笑えない」ジョークも出てくる。
無論、奇行は数々…。
また宿敵ソ連のボリス・スパスキーもいい。
数秒出た鼻歌はよく聴くと「インターナショナル」。
一方、世界戦で神経質になり、対局場での自らの椅子に、何か振動がする、何か仕掛けられている、調べてほしいと要請する。
調べると、死んだハエが二匹。
閉じこめられたハエの音が気になるのか、と震かんする場面である。
「滝の音が気になる。滝を止めてくれ」というひふみん伝説を思い起こさせる。
しかし、フィッシャーもスパスキーも国家の圧力の中に苦しんだろうことは容易に想像出来る。
原題が、Pawn Sacrifice。
フィッシャーが若くしてグランドマスターとなったときの戦法は Queen Sacrifice。
原題はこの戦法を思い起こさせるとともに、同時に、国家に翻弄される「犠牲のコマ」という意味も持ち合わせている。
ある時は英雄、ある時は犯罪者…。
国家の都合でどうにでもなる「所詮、将棋のコマ」というわけである。
盤外に、色々な事を考えさせられる作品である。
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